てんかんは、突然意識を失って反応がなくなるなどのてんかん発作をくりかえし起こす病気です。原因や症状は人により様々で、乳幼児から、小児、学童、思春期、成人、高齢者のいずれの年齢層でも発症しますが、特に小児と高齢者で発症率が高いといわれています。患者数は1000人に5人~8人(日本全体で60万~100万人)と、誰もがかかる可能性のあるありふれた病気のひとつです。てんかん発作は、脳の一部の神経細胞が突然一時的に異常な電気活動(電気発射)を起こすことにより生じますが、脳のどの範囲で電気発射が起こるかにより様々な発作症状を示します。しかし症状は基本的に一過性で、てんかん発作終了後は元通りの状態に回復することが特徴です。原因は様々で、脳腫瘍や頭部外傷後遺症などの明らかな原因がある場合は「症候性てんかん」、原因不明の場合は「特発性てんかん」と呼ばれます。頻度は、前者が全体の約4割、後者が残りの約6割を占めるとされます。治療は適切な抗てんかん薬を服用することで、全体としては、2/3から3/4の患者さんでは発作は抑制され通常の社会生活を支障なくおくれます。一方、抗てんかん薬では発作を抑えることができず、「難治性てんかん」として複数の抗てんかん薬の調整や外科治療などの専門的なてんかん治療を必要とする場合もありますが、手術で発作の完治を期待することもできます。
てんかんには大きく分けて、発作の開始時に脳の両側からてんかん性の興奮が出現する「全般てんかん」と、発作は傷の周囲の特定の電気回路から始まる「部分てんかん」の2つがあります。また、その発作の症状は、脳の一部で異常な電気発射が起こる発作(部分発作:後頭葉の視覚野で起これば光がチカチカ見える、手の領域の運動野で起これば手がピクピク動く、側頭葉で起これば前胸部不快感や既視感など)や、電気発射が脳全体に広がった発作(全般発作:意識を消失し動作が止まって応答がなくなる、倒れて全身を痙攣させるなど、患者さん自身は発作の間意識がなくなり周囲の状況がわからない)があります。また、体の一部あるいは全体が一瞬ピクンと動くミオクロニー発作や、突然体の力が抜けバタンと倒れる脱力発作、あるいは手足や口をもそもそと動かす自動症といわれる発作などもあります。発症年齢が乳児期・幼児期の場合には、比較的難治のてんかん性脳症の場合もありますが、発症年齢が学童期以降の場合には、発作の寛解率が高く、予後のよい特発性全般てんかんの可能性が大きくなります。
てんかん発作を起こす場合、基本的に脳波とMRI検査を行い、てんかんの診断と原因を確認する必要があります。しかし、脳波でもMRIでも異常が認められないてんかんも少なくはありません。この場合には、複数回脳波を測定する必要があります。また、非常に特殊なケースでは、大学病院に依頼し、脳磁図や特殊な電極をを用いた脳波を行うこともあります。 当院では、脳波の検査はJCHO大阪病院に依頼し、専門医による脳波の判定を行い、診断を確定致します。
発作で意識が消失することは、患者さんにとって社会生活上最も大きな障害となる症状で、事故にあう危険はもちろん、就労や就学、あるいは自動車運転などに際し大きなハンディキャップとなります。従っててんかんの治療は、発作をいかに消失させるか、あるいは意識消失を伴う発作の回数をいかに減らせるかが主要な目標となります。具体的な治療方法としては、抗てんかん薬の調整が主ですが、自己判断で薬を中断しないことが、発作を防ぐうえで重要です。また、中には先に述べたとおり外科治療で完治を期待できる場合もあり、早期に適切な診断を行うことも大切なことです。抗てんかん薬を処方する際は、安全な薬の服用と効果の判断のために、血中濃度の測定(採血)を定期的に行います。また、抗てんかん薬の一部には薬疹や重い副作用が出現する可能性があること、妊婦に投与する場合には催奇性(胎児に奇形を起こすこと)が高い薬剤の服用を避けることなどの注意が必要になります。
てんかんは、一旦診断されるとその後長期間服薬を必要とすることが多いため、初期診断で、本当にてんかんなのかどうか、ほかに治療が必要な原因はないのかを見極めたうえで、長期的な治療の見通しを立てることが大切です。症状が良くなったと思い、患者様の判断で薬を飲むことを止めてしまったために、ふたたび症状が重くなってしまうことが良くあります。飲んでいただく薬の量は患者様の状態を見極めた上で調整していますので、飲む量・回数はお守りください。 てんかんをもつ人にとって、発作が起こっている時間は通常数秒から数分間にすぎないため、発作が起こっていないその他のほとんどの時間は普通の社会生活をおくることが可能です。従って、病気の特性を周囲の人がよく理解し、過剰に活動を制限せず能力を発揮する機会を摘み取ることのないよう配慮することも、てんかんをもつ人に対するケアを行う上で大切なポイントです。 またてんかんをもつ人は、小児では発達や就学、成人では就労や自動車運転、女性では妊娠と出産など、生活上のさまざまな問題に対する継続的なサポートを必要としています。また発作の止まらない患者さんでは、くりかえすてんかん発作による脳機能障害や心理・社会面の障害に対するケアも重要で、様々な福祉制度を活用することも求められます。