パニック発作といわれる、突然の動悸、息苦しさ(過呼吸)、めまい、発汗、冷感、手足の震えやしびれなどの強い恐怖感を伴う発作を繰り返すことを特徴とする病気です。 従来は不安神経症の一部として扱われてきましたが、その特徴的な病像から独立した疾患として1980年にパニック障害と命名されました。日本でのパニック障害の有病率は0.5%と言われております。パニック障害がどうして発症するのか、そのメカニズムはまだはっきりとは解明されていませんが、最近、脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンなどが不均衡になり、これらの過剰や不足によって脳内の神経回路に異常を来すのではないかと言われております。これは、恐怖や不安といった情動を伴う記憶が、我々が日常で様々な出来事を記憶する回路とは違うところ(情動反応の処理と記憶について重要な役割を持つ扁桃体を中心とした大脳辺縁系)で恐怖の記憶として残ります。これは我々人間が動物である限り、危険を察知して回避するために本能的に必要な記憶として強く長く残るためと言われております。このため以前に発作を起こした場所などの状況で危険が差し迫ったと脳神経が誤って警報を出すため、パニック発作や予期不安が生じるのではないかと言われております。
診断は、ICD-10やDSM-Vに則って行います。突発性のパニック発作の繰り返しと予期不安があり、原因になるような身体疾患がないのが診断の主な条件です。身体疾患を除外するために、血液、心電図、場合によっては脳波検査などの内科的な検査を行い、心血管系疾患、呼吸器疾患、甲状腺機能亢進症、低血糖、薬物中毒、てんかんなどを除外して診断をつけます。
治療法には、主に薬物療法と心理療法(認知行動療法)があります。まず抗不安薬(アルプラゾラムなど)や、セロトニン調節薬であるSSRIなどを必要最小限用い、パニック発作が起こらないようにする治療を行います。副作用も考慮し、発作が起こらなくなるまで必要な量を十分な期間服用し、発作がなくなっても数か月は服薬を継続する必要があります。次に不安が軽くなってきたら、今まで避けていた外出や乗り物に少しずつ慣らしていく訓練(曝露療法[ばくろりょうほう]:行動療法の一種)を行います。また、少しのた動悸やめまいを恐ろしい病気では、と自動的に解釈する考え方の癖を直していきます(認知療法)。また、自律訓練療法という、不安や動悸などの自律神経症状を緩和させるセルフトレーニングを併用することもあります。
症状が良くなった場合、患者様ご自身の判断で薬を飲むことを止めることがあり、その後症状が再燃、再発することがあり、場合によっては重くなってしまうことがあります。処方したお薬の内容や量は患者様の状態を判断した上で調整しておりますので、飲む量・用法は必ずお守りください。 上述のようにカフェイン、ニコチン、アルコールなどの過剰摂取や、過労、睡眠不足で、パニック発作が誘発されることがありますので、これらをできるだけ避け、規則正しい生活を送ることが大切です。 症状が出現しているのに正しい診断がなされず、過換気症候群、心臓神経症などの病名で、パニック障害と正しく診断されない場合もあります。また、症状が軽く一過性でおさまる場合もありますが、軽快と悪化を繰り返し慢性に経過する場合が多くみられ、半数以上にうつ病を伴ってくることがあるので、心療内科の専門医の診察を受けてください。また、外見ではわかりにくい患者さんの辛さを家族や周囲の方が理解し、外出訓練に同伴してあげるなどの協力も必要です。