躁うつ病は双極性感情障害とも言われ、うつ病と同じ気分障害の代表的な病気です。躁症状(過度の気分の高揚感、万能感など)とうつ症状(憂鬱な気分、興味・意欲が出ない、考えがまとまらないなど)を安定した時期をはさみながら(一部周期的に)症状の出現を繰り返す病気です。躁症状があるという点でうつ病とは異なり、病態や治療法までうつ病とは異なる病気です。当初から躁症状で発病する場合やうつ病の治療中に躁症状を認める場合など様々なケースがあり、躁状態時には、大きな買い物をする(浪費)、些細なことでカッとなり他者とトラブルになる(被刺激性亢進)、など極端な非社会的言動が目立つこともあり、自分が躁状態であるという意識が薄れることが特徴です(病識低下)。特に軽い躁状態(軽躁状態)時には、気分が良くて仕事もバリバリできる、眠らなくても頭が冴えて物事がはかどる、など本人が自覚するだけで周囲に分からない場合もあり、うつ病との鑑別が困難な場合があります。欧米の有病率は2~3%と言われておりますが、日本人では約0.6~0.9%と少なく、発病年齢は20代にピークがあり、男女比は1対1と言われております。うつ病に比べると頻度は少ないと言われますが、20歳以前、あるいは20代で発病するうつ病の場合は、その後に躁うつ病に転ずる場合もあり、注意を要します。比較的軽度の病状時に正しく適切な診断と治療を受けなければ、行動化が激しくなり入院治療が必要になる場合もあります。
病気になりやすい体質(素因)の一つに遺伝が関与されると言われており、双子の発病率の研究では一方が発病した場合、片方にも8割の確率で発病すると言われております。しかしながら、遺伝だけで要因を特定できるわけではなく、これら以外にも環境の変化などのストレスが加わることによって発症すると考えられていますが、はっきりした原因はまだ解明されていません。これらから、まずはどのような症状がいつくらいから出現したのか、親兄弟に同じような症状で悩まれた方がいらっしゃるのか、自分の自覚はなくても、家族や友人から見たら高揚感にあふれた言動がなかったのか、など丁寧に問診を取っていきます。診断は、ICD-10やDSM-Vに則って行います。症状の現れ方として、I型とII型に分けられ、激しい躁病相があるのか(I型)、軽い躁病相であるのか(II型)に規定されます。I型の患者さんの一部は、躁病エピソードのみ経験することがありますが、ほとんどの人は抑うつ期間もあり、治療を受けない場合は一般的に躁病相は3カ月から6カ月続きます。これに比べ、うつ病相はやや長く続き、治療を受けない場合は6カ月から12カ月程度続くと言われております。時に躁病相とうつ病相の症状が同時に混じり合って出現することがあり、これを混合状態と呼びます。適切な診断と治療を受けなければ病相が繰り返すにつれて持続期間は長くなり、病相と病相の間隔は短くなります。極端には、年に4回以上の病相を繰り返すラピッドサイクラーと呼ばれるケースもあり、診察場面ではこれらの状態がなかったのか丁寧に診断していきます。
躁うつ病の治療もうつ病と同様、薬物療法、精神療法、環境調整の3本柱で行われますが、薬物療法はうつ病と基本的に異なります。薬物療法では、気分安定薬(日本では炭酸リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギンの4種類が使用できる)を中心に用いるのが原則で、激しい躁状態には鎮静効果のある抗精神病薬を、また程度の重いうつ状態には少量の抗精神病薬や抗うつ薬を用いることがあります。特に炭酸リチウムやバルプロ酸を服用する場合は、副作用が出ないように血中濃度を測定しながら投与量を決めるなど細やかな調整が必要になりますので、専門医の指導に従って治療を続けることが大切です。 当院での治療は、上記薬物療法と、患者様の回復状状況に応じた心理、生活上のアドバイスを行います。具体的には、気分の観察に主眼を置いた記録法を用いてご自身の気分の変動を自覚する治療法や、認知行動療法などのカウンセリングを取り入れることもあります。お薬を使う場合でも、できるだけ副作用の少ない上記薬剤を必要最小限投与するようにしております。
症状が良くなった場合、患者様ご自身の判断で薬を飲むことを止めることがあり、その後症状が再燃、再発することがあり、場合によっては重くなってしまうことがあります。処方したお薬の内容や量は患者様の状態を判断した上で調整しておりますので、飲む量・用法は必ずお守りください。 特に躁うつ病の場合、これまでに躁病相の回数が多いほど、躁病相の再発が起こる可能性は高まり、過去に3回以上の躁病相がある方は気分安定化薬の服用を続けないと20〜40%以上の方が再発すると言われており、長期間調子が良くても、エピソードが再発する危険性は依然としてあります。躁うつ病の6割は気分安定薬の長期使用により、新たな病相を予防することが可能です。予防に重点を置いた治療計画が必要ですので、必ず医師に相談してください。