自分でも、不合理でばかげていると認識していても、自分の意に反して不快な考えが繰り返し浮かんできて、おかしいと分かっていながらも抑えようとしても抑えられない強迫観念を有し、そのような考えを打ち消そうとして、無意味な行為を何度も同じように繰り返さないと気が済まなくなる強迫行為に至る病像で、不安障害に分類され強迫性障害と呼ばれます。 強迫性障害では、強迫観念に由来する不安や不快さを打ち消すために強迫行為を繰り返すことで、自宅から一歩も出られないなど日常生活に大きな支障を来すことがあります。また、統合失調症やうつ病など他の病気でも強迫症状がみられることがあります。発症の原因としては、心理的・環境的な要因より、もともと几帳面、完璧主義などの性格(強迫性格)を基盤に、大脳基底核、辺縁系などの脳内の特定部位の障害や、セロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質の不均衡による神経系の機能異常が推定されております。多くは特別なきっかけなしに徐々に発症してきますが、幼少期より強迫性の強い親からの養育で子供が強迫性を有するようになることが知られております。 薬物やギャンブル依存症も、やめなければいけないとわかっていながら、やめられない、という点で強迫性障害に似ていますが、依存症ではその行為に快感を伴うのに対し、強迫性障害では快感はなく苦痛のみである点が異なっています。
診断は、ICD-10やDSM-Vに則って行います。強迫観念、行為はうつ病、統合失調症など他の精神疾患でもみられるため、それらとの鑑別が必要です。また稀ですが、脳炎など脳器質性疾患でもみられるので、これらが疑われる場合は鑑別のための血液検査、髄液検査、頭部CT、MRIなどの画像検査、脳波検査など、が必要になります。
治療法には、薬物療法と精神療法があります。脳内のセロトニンの調整をするSSRIや三環系抗うつ薬などの抗うつ薬が用いられます。薬の効果が出るまでに2~4週間かかるため、服薬を継続することが大切です。不安感や焦燥感が強い場合は、不安を抑える働きのある抗不安薬、症状が重い場合は少量の抗精神病薬も用いられますが、いずれも有効率は50%前後と言われております。強迫行為により不安が軽減するどころか逆に不安が強まり、さらなる強迫行為を繰り返す悪循環に陥るといった特徴があります。これらに対し、精神療法では、曝露反応妨害法と呼ばれる認知行動療法が用いられます。強迫症状が出やすい状況はいくつあるのか、どんな程度なのかをまず評価法に表し、低次なものから患者さんをあえて直面させ、かつ強迫行為を行わないように指示し、不安が自然に消失するまでそこにとどまらせ学習するという方法です。専門医と相談しながら継続して取り組んでいくことが必要です。
脳の病気であることやご本人の苦しみや治そうとする努力を理解することが必要です。強迫性障害の症状は、比較的時間をかけて徐々に症状が改善しますので、治療の初期の段階であきらめないことが非常に大切です。症状の波に一喜一憂せず、気長に支援するというスタンスが大切です。約1/3の方にうつ病の症状が現れることがあります。気になる症状があれば、専門医にご相談ください。また、ご本人から確認などの強迫行為に協力を求められることがありますが、回復や治療を妨げることになるため協力は控えてください。強迫性障害は日常生活に支障がないレベルまで治療する事は可能です。しかし症状を完全になくしてしまうことは難しいのです(誰でも多少の拘り程度のものは日常生活にもありますので)。完璧に症状を無くすということにこだわりすぎないことも重要です。また、家族や身近な人は、患者さんの症状を理解してあげてください。なぜ、そのようなつまらないことを気にするのか、と思うかもしれませんが、気になること自体が病気なのです。本人の苦痛ははたで見るより深刻ですので、心情をまず理解してあげてください。